冷たいキミの愛しかた
「ふざけるな。
仮に僕が今、お前を見捨てて
この場から立ち去って、
お前がここから飛ぶのを
直接見なかったとしても、
もう、お前と僕は関わってる。
会話して、お互いがお互いを
認識してしまっているんだ。
そんな人間を見捨てて、
僕が良い気分でこの先
生きていけるわけがないだろ、
一生忘れられない出来事として
記憶に残るに決まってる、
迷惑なんだよ」
一気にまくし立てる僕を
見もせずに、篠宮いのりは
目を細めて春の空を眺める。
「やっぱりあなたは
友達が少なそうね、それに…」
「?」
このとんでもない状況で、
おかしそうにくすくすと
笑いながら僕に目を向けた。
その笑顔は、
とても綺麗で、とても眩しくて
「そんなことだから、
彼女が出来ないのよ糞野郎」
「え、え?
今なんか僕とても口汚く酷い
罵り方をされなかったか?!」
「あらやだわ。このあたしが、
清純で正統派美少女な見た目の
このあたしともあろう人間が
いかにもヘタレで友達も
居なそうな平凡な男を口汚く
罵ったりするわけないじゃない、
あらぬ誤解を招く発言よ。
今すぐここから飛び降りて
先ほどの発言を訂正しなさい」
「発言を訂正する前に
僕の命が途切れるよ!
というか何でお前が僕に
彼女が居ないって
知ってるんだよ!」
「そんなこと、
決まっているじゃない」
すっと彼女の顔から
笑顔が消える。