赤い月 参

「そなたもかなりの阿呆じゃ。
大吾、大吾、うさぎ、うさぎと、人の事ばかり。
このような時くらい、我が身を思って泣くが良い。」


祥子の肩に置いた景時の掌に震えが伝わる。

大きく見開かれた祥子の目から、大粒の涙がポロリとこぼれた。

一粒、また一粒、静かに静かに落ちる涙。



あら?


「ぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
うさぎぃぃぃありがとぉぉぉ!!
ごわがっだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


全然、静かじゃなかったわ。

小柄なうさぎに覆い被さるように祥子が抱きついて、号泣する。


「いや、妾ではなく大吾の胸でだな…」


慌てるうさぎの声も、耳に入っていないようだ。

唇を噛んで我慢していた小鞠もとうとう貰い泣きを始め、うさぎに飛びつく。

もう、景時にはうさぎの足しか見えない…

< 110 / 223 >

この作品をシェア

pagetop