赤い月 参

頭を押さえて、フリスビーを投げられた子犬のようにぶっ飛んでいく蒼龍を、うさぎは腕を組んだまま見送った。


「んじゃ、俺も捜しに」


「景時。」


腰を払いながら立ち上がった景時を、うさぎが呼び止めた。

月の光に照らされて無表情に立つ彼女は、女神の彫像のように美しい。


「先程の話は事実じゃ。
妾はあの夜、あの場におった一族郎党全て、老若男女問わず赤子に至るまで惨殺した。
母の前で幼子を、息子の前で老いた母を喰ろうてやった。
理由などない。
妾が鬼だからじゃ。」


「…」


「大吾と祥子同様、そなたも好きにするが良い。
蒼が言ったように、逃げるのも良かろう。

妾の牙が、そなたの血で染まる前に。」

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