赤い月 参
うさぎが扇子を手にして舞うように振るうと、視界一面が青い炎で覆われた。
逃げ場をなくした『闇』が、声無き声を上げながら消滅していく。
炎を見つめる彼女の瞳に迷いはない。
どこまでも透き通るルビー。
『人間はいつだって姫に守られているのに、いつだって姫を傷つける』
少年の姿をしたドラゴンの言葉と、あの夜の哀しみに満ちた赤い色を思い出す。
彼女も傷を負っている。
なのに…
真っ直ぐに前を見ている。
限りなく優しく微笑む。
なれるだろうか、彼女のように…いや、違う。
彼女と肩を並べて立てる男に。
これは、俺の心が望むこと。
やっと動き出した裸の心が。
水原は片手でネクタイを緩めた。
本当は、スーツもネクタイも嫌いだ。
早く大人になりたかっただけ。
大人になれば、迷いも消えると思っていただけ。