赤い月 参
「何事じゃ?」
うさぎが目を丸くして頬に白い手を当てたのを見て、一瞬固まった水原がさらに激しく身悶える。
(もーイヤ、コイツ。)
景時は泣きそうになりながらうさぎを腕の中に閉じ込めて、水原の視線を遮断した。
「ジジィ、俺帰るわ。
もうムリ。」
「そうだな。
コッチもムリだろ。」
「ま… 待て。」
笑いを堪えて揺れる秋時の肩を支えにして、息を荒くした水原が上半身を起こした。
「私は誑かされないぞ。
おまえを必ず捕らえてやる!」
「それも一興。」
うさぎが景時の腕からひょっこり顔を出し、長い髪を揺らしながら楽しげに笑った。
「それができるのならば、そなたの元へ下ってやらぬこともない。
ただし、我が主の生活に支障が出ては困る。
仕事中と学校の間は大人しくしているが良い。
主の友人と、寺の者への手出しも許さぬ。
『良いな、尚人』」