赤い月 参

「良いのじゃ。
景時、薫。」


ロッキングチェアを軽く揺らしながら、うさぎが笑った。


「衝動に身を任せねば晴れぬ憎悪があることも、妾は知っておる。
だがな、尚人。
その道の先に何が待っておるか、そなたにわかるか?」


「地獄だとでも言うつもりか。
そんなことはわかって」


「地獄?
そんな洒落たものは待ってはおらぬ。」


うさぎが振り向く気配がして薫と水原が息を飲んだのがわかったが、景時はそちらを見なかった。

見なくてもわかる。

彼女は景時が見たくない、乾ききった哀しい瞳をしているだろう。


「『空』じゃ。
世界も、心も、全てを失う。
懐かしい記憶も、愛しく思っていた者も、色褪せ価値を失う。
そこには何も無い…」

< 64 / 223 >

この作品をシェア

pagetop