赤い月 参

解放された鼻を片手で押さえる景時を、薫は玄関のドアノブに手をかけながら振り返った。


「早くモノにしちまえ。
でなきゃ鎖で繋いどけ。
月に帰したりすんなよ。」


デカい背中が、玄関扉の向こうへ消える。

リビングに戻れば、うさぎが
‥‥‥‥‥‥いるんだろうか?

かぐや姫、ね。
上手いコト言うわ。

家族を奪われて憎悪に心を囚われたという、水原。

『誰かサン』がいなきゃ水原と同じようになっていたという、薫。

俺だって、一人じゃ前を向けなかっただろう。

じゃあ、うさぎは?

何かに囚われているの?
誰に、何を、奪われて?
『その道の先』にあるという『空』を、知っているの?

うさぎは『空』なのだろうか?


(俺は彼女を何も知らない…)


景時はリビングのドアを開けた。

うさぎがいる。
さっきと変わらぬ姿勢で。
心だけ月に連れ去られたまま。

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