赤い月 参
うさぎの最近のお気に入りは、景時仕様のココア。
と言っても、仕上げに塩とバターを少し入れただけの普通のココアなのだが、うさぎには隠し味は教えていない。
今後も教えるつもりはない。
だって、景時からココアが入ったマグカップを受け取る時のうさぎときたら。
だって、両手で囲むようにマグカップを持ち、慎重に熱いココアを啜るうさぎときたら。
だって、マグカップから唇を離し、桜色に染まった頬で微笑むうさぎときたら…
ハイ、ココア一口で軽く三回は死ねる。
その上、その嬉しげな可愛い表情を彼女にもたらしたモノが、自分の作ったココアだなんてもう、ね。
(幸せすぎて、タケ○プターなくても飛行可能だわ、俺。)
景時は手鍋の中のココアパウダーを慣れた手付きで練りながら、ソファーに深く腰を掛けて、足を軽く揺すりながら彼を待つうさぎを、ココアよりも甘く蕩けきった顔で眺めた。