揺れる水面 映る月影は何処から
《上弦の月》
1.血潮に染まる
禁門の変からしばらく経った頃。
左腕の怪我が完治した妃絽は潜入捜査をしていた。
捜査の対象は長州の敗残兵を匿っていると噂される料亭。
「ひさちゃん、これ離れに運んで」
「は~い!」
妃絽はひさという偽名で、料亭の使用人として働きながら情報を得ていた。
料亭の女将に頼まれ、妃絽は御膳を二つずつ重ねると、それを両手に抱えて離れへと向かった。
今から行く離れは料亭の一番奥にあり、あまり人は近付かない。
妃絽も働き始めて一週間は経つが、初めて行く場所だ。