揺れる水面 映る月影は何処から


「何でもない」



妃絽は小さく笑うと、縁側の床についている土方の手に触れた。



すると、その手は彼の大きな手に包まれた。



優しい温もりがじんわりと手に感じられる。



「あ、言い忘れてた」



ふと土方は何かを思い出したように妃絽の方を向いた。



妃絽は何事かと疑問符を浮かべる。



「おかえり、妃絽」



その言葉と共に彼の顔が近付いて来る。



「ただいま、土方さん――」



妃絽はそう言い終えると、そっと双眸を閉じた。



唇を重ねる二人を月の光が静かに照らした――。







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