cяimson moon 赤い月 extra

いつも通り帰宅した妻は、やはり今夜も一人で寝室に入ってしまった。

溜め息を吐いて座る夫の肩を、息子が小さな手で揺する。


「父さん、父さん。
今日も遊びに行こー?」


元気一杯の息子は、家の中や庭先だけの遊びでは物足りない年齢になってきた。

だから最近、夫は夜になると息子を裏山に連れ出す。

息子はすっかり夜型になってしまったが、しょうがない。

『ある事情』で、夫は昼に出掛けることが出来ないのだ。

日本人にしては色素の薄い茶褐色の瞳をキラキラさせて、普通の父親とはかなり姿形の違う夫を見上げる、小さな息子…

成長して真実を知れば、息子は自分を恨むだろう。
憎むだろう。

それでもいい。
それでも愛している。

今出来る精一杯の愛情を、注いでやりたい。


「行クカ。」


夫が微笑みながら息子の頭に歪な手を乗せると、彼は妻によく似た笑顔を見せた。

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