結婚白書Ⅰ 【違反切符】
昨日と違ってお互いラフな格好だった。
彼女の着ているニットが 腰のくびれを強調している。
ドキリとした。
「桐原さんの足ながーい 私とこんなに違いますよ」
手で ”これくらい” と長さを示す。
彼女の口から 昨日より親し気な言葉が出てくる。
海岸の倉庫街
古い倉庫を改築して たくさんの店が並んでいる。
最近出来た場所で 観光客に人気があるらしく
行きかう人の言葉のイントネーションが様々だ。
倉庫街の前の堤防が整備され 遊歩道ができていた。
歩きながらいろんな事を話した。
「昨日大丈夫でした? まさか 家におばが待ってるなんて・・・
帰ってから ずーっと質問攻め うんざりして さっさと寝ました」
「あはは 僕と一緒だ こっちも同じ お袋とおばさんに責められてまいったよ
次に会う約束をしたら ”承諾しました” ってことだなんて
信じられないね」
彼女がそうそうと頷く。
二人で おばさん達の理解に苦しむ言動に呆れながら
互いに昨夜の出来事を話す。
「私がいつまでもウジウジしてるからって どんどん話を持ってくるの
困っちゃって」
「ウジウジって なにかあったの?」
「えへへ・・・私 去年の秋に失恋したんです
相手の人が二股かけてるのを知らなくって バカみたいでしょう?」
そう言って彼女は首をすくめた。
「うぅん そんなことないよ・・・」
慰めにもならない答え 本当はずいぶん苦しんだんだろうな。
サラッと言えるようになるまでに どれくらいの時間がかかったんだろう。
二股って事は 相手の男はもう一人の女性を選んだんだ。
言いようのない怒りがこみ上げてきた。
そんな”二股男”なんて 別れて良かったんだよ。