結婚白書Ⅰ 【違反切符】
「今日はありがとう 助かったよ 少し休もうか」
アイスコーヒーの氷が クラッシュアイスになってるわねと彼女がはしゃぐ。
今日まで 互いに水族館のことには触れなかった。
彼女に聞くか 聞くまいか悩んでいたら 彼女の方から話し出した。
「水族館で会った彼がそうなの 前に付き合っていた人・・・」
「うん そうだと思った」
アイスコーヒーを飲み終えたグラスを 所在なげにかき回す。
静けさがたまらなくイヤだった。
「あの時 私の名前を読んでくれたでしょう 嬉しかった
桐原さんに出会うまで 心のどこかに彼がいたような気がするの
でも あれで吹っ切れちゃった」
そう言うと 肩をすくめて 残りのアイスコーヒーを飲み干した
いま 吹っ切れたって言ったよな?
吹っ切れたって 今は俺の方に気持ちが向いてるってことか?
彼女の気持ちを確かめるチャンスかも!
何か言わなきゃ でもなんて聞いたらいいんだ
”僕のことをどう思ってますか”なんて 直接的過ぎるし・・・
うゎ~なんか体が熱く火照ってきたよー
ガシャガシャと また氷を混ぜる。
「さっきのお菓子ね 風流庵の新作菓子なの
お値段も手ごろで美味しくて 売り切れて買えない日もあるみたい」
気まずい空気を察したのか 彼女が話題を変えた。
そのまま 一緒に人気の菓子の話をしてしまう。
あー俺ってなんでかな
こんな話をしたいんじゃないのに 愛想良く相槌をうってるよ
一緒にいて とても楽だ すごく美人ってワケじゃないけど
かわいいし 笑顔がいい
彼女が一緒だったら何をするのも楽しいだろうなぁ
ふと 結婚後の様子が頭に浮かんだ。
エプロン姿の和音さんが 「おかえりなさい」って玄関まで迎えに来るんだ
夕食の準備ができてて・・・
うぁっ 俺 何を想像してんだろ。
ワケもなく顔をパンパン叩く。
彼女が不思議そうな顔をして覗き込んでいた。