結婚白書Ⅰ 【違反切符】
「ごめん・・・」
しばらく抱きしめたまま 彼女が落ち着くのを待った。
「俺のこと嫌いじゃないよね」
腕の中の彼女が”コクン”と頷いた。
「このまま付き合ってもらえるかな」
また頷く。
「上手く言えないけど 俺 すぐに結婚って考えられないんだ
和音さんがイヤとかじゃなくて もっと分かり合えたらって思ってる
でも お母さんたちもそれじゃ納得されないだろうから
明日 和音さんのお母さんたちに俺の気持ちを話すから
まだちゃんとした返事は出来ませんが 結婚を前提に
お付き合いさせてくださいって それでいいかな?」
彼女が 何度も 何度も 頷いた。
抱きしめていた手をほどくと 涙でいっぱいの笑顔が見えた。
「もう大丈夫だから えへへ・・・こんな顔じゃ帰れないわね
顔を洗ってくる」
泣き笑いの表情を隠すように くるりと背を向けて公園の水道へ走っていった。
お袋 俺の負け お袋の策にまんまとハマったよ
うん 覚悟を決めた!
彼女を送り届けて家路に着く。
連休中の道路は 思いのほかすいていた。
別れ際に触れた 彼女の唇の感触が まだ残っている。
彼女の顔が浮かんでは消え また浮かぶ。
信号待ちで 自分の唇に手を当ててみる。
うわ~~恥ずかしい
俺 中坊のファーストキスのあとみたいだ。
青信号になり アクセルを踏み込み 勢いよく飛び出し 更に加速した。
あれくらいで興奮してどうするんだよ。
いつしか 後ろにピッタリくっつて走る車が一台
バックミラーに写る
程なくサイレンの音
覆面パトだった。