アイのカタチ

「いや、だから何かあったかなって」

「別に何もないけど」

「うーん…。あ、いやね、手っ取り早く言うとさ、…ほらアイツ」

「え?」

「だからアイツだよ。中学ん時から美鈴にゾッコンだった奴いるじゃん。そいつに出会った?」


一瞬、呼吸が止まりそうだった。

颯と居る時に出会ったアイツ。


もう半分忘れそうになってたのに、また思い出した。

しかも何でそんな話し?


「千佳、何でその事?」

「やっぱ、そうなんだ」


出会ったとは言ってないのに、千佳は変にため息を漏らした。


「千佳、アイツと出会ったの?」

「違う、違う。出会ってないよ。…ただ変な事聞いちゃったんだよね」

「変な事?」


そう言ったあたしに対して目を泳がせる。

まるで言っていいのかどうしようかって言う困った表情。


「あー…でも聞こえたから実際はホントかどうかなんて分んないよ。なんて言うのかな、黒沢が原因してるって…」

「…颯?」

「あ、違う、違う。変な意味じゃないよ。だから黒沢がアイツらの仲間を殴ったって」

「颯が?…何で?」

「それが美鈴の事みたいで」

「あたし?」

「う、うん」


遠慮気味に頷く千佳は表情をグッと変え曇らせた。




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