ブラックコーヒー

□初めての心の準備

「……。」



声のない食卓。
『いただきます』すらもない。

淡々とご飯を食べ、『いってきます』の声もなく家を出る。


今日、『おはよう』すら言ってない気がする…。言ったっけ?

そんなことを考えながらバスに乗った。


斗真さん…いないかな。
無意識のうちに探してしまう。

だけど、今はもうあの頃とは違うんだ。


見つめてるだけの…赤の他人じゃないんだ。



今日は、斗真さんと会う日。
私が…処女を失う日。

ファーストキスさえも、失う日。



「あ、おはよー美由里。」

「おはよっ、杏!」



杏には、絶対に言えない。
< 30 / 382 >

この作品をシェア

pagetop