やわらかな夜
 * * *

有村と関係を持つきっかけとなったのは、2年前の彼女の誕生日だった。

「――出張?」

休憩所にきた俺を待っていたのは、携帯電話で話をしている彼女の姿だった。

誰と話をしているんだろう?

そう思いながら、俺は休憩所に足を踏み入れた。

「へえ…じゃあ、行ってらっしゃい」

有村が話し終わったと言うように、携帯電話から耳を離した。

「あら、滝本くん」

話し終えた有村が俺の存在に気づいた。

「どうも」

俺は彼女に向かって会釈をすると、自販機へ向かった。

「――今日ね」

飲み物を選んでいた俺に、有村が話しかけてきた。

「私の誕生日なんだ」

有村が言った。
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