やわらかな夜
そう言った有村に、
「誕生日、ですか?」

俺は視線を向けた。

有村は椅子に腰を下ろした後、息を吐いた。

俺は彼女の隣の椅子に腰を下ろすと、
「おめでとうございます」
と、言った。

「ありがとう、滝本くん」

有村が俺に向かって笑いかけた。

けど、その笑顔は悲しそうだった。

「なのに夫は今日出張でね、今日から3日間は家に帰らないんだって」

有村はやれやれと言うように息を吐いた。

「あの様子じゃ、私の誕生日なんて忘れてるわね」

有村は自虐的に言った後、笑った。

「――あの」
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