やわらかな夜
この前の喫茶店に行くと、有村はすでに椅子に腰を下ろしていた。

俺が持っているカバンの中には、あかりからもらった茶封筒が入っている。

「お待たせしました」

「あら、営業だったの?」

有村が俺が持っているカバンに気づいた。

「――ええ…まあ…」

俺はごまかすように言った。

俺と有村の間に沈黙が流れる。

頼んだコーヒーが飲めないので紅茶にすればよかったかなと、俺はそんなことを思った。

何故なら、コーヒーを見るとあかりを思い出してしまうからだ。
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