やわらかな夜
「いつかは私から離れるんだって、そんな予感してた」

「――あの…」

声をかけた俺に、
「無理、しなくてもいいのよ?」

有村は泣いている子供をあやすように言って笑った。

「大切な人ができたって言うのは嬉しいことよ」

自分の中の大切な人の存在を確認するため、俺は目を閉じた。

大切な人。

あかりと有村――俺は、どちらを大切な人だと思っているのだろう?

まぶたの裏に浮かんだ顔は、
「――あかり…」

あかり、だった。

「その子が大切なら、私とお別れしなきゃね」

有村の言葉に、俺はハッとなって目を開けた。
< 56 / 111 >

この作品をシェア

pagetop