やわらかな夜
あかりの名前を呼んだのは、俺じゃない。

聞き覚えのない男の声だった。

俺があかりに視線を向けると、彼女は何故か震えていた。

「行こ」

あかりに急に腕を組まれたと思ったら、俺は引っ張られた。

「お、おう…」

訳がわからず、あかりに腕を引かれるまま歩かされた。

誰だよ、今のヤツ。

あかりに問いかけようと思って口を開いた俺だったが、すぐに口を閉じた。

コーヒー色の瞳が潤んでいたから。

こらえるように唇を噛んでいたから。

あかりのこの様子を見たら、絶対に聞いちゃいけないような気がした。
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