やわらかな夜
目の前のドアが閉まる。

なのに、俺は1歩も動くことができなかった。

ただ、その場で見ているだけだった。

あかりが去って行くところを。

ドアが閉まるところを。

ただ、見ているだけしかできなかった。

追いかけたいのに、追いかけれない。

引き止めたいのに、引き止めれない。

俺は、そこから動くことができなかった。

ただ、そこで突っ立っていた。

「――何でだよ…」

出てきたその声は、ひどいくらいに震えていた。
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