やわらかな夜
その名前は、今思い出してとっさに名乗った名前かも知れない。

でも彼女の名前がないよりかは、まだマシだと思う。

「――あかり…」

俺は彼女の名前を呼ぶと、
「――んっ…」

吸いつきそうなくらいに柔らかい彼女の頬にさわった。

自分の頬をさわる俺の手に、あかりは気持ちよさそうに目を細めた。

あかりの顔に近づけると、自分の唇を重ねた。

――チュッ…

その音は始まりの合図のように、寝室に響いた。

あかりの両手が俺の背中に回った。

「――シュー…ジ…」

名前を呼ばれただけなのに、俺の心臓がドキッと鳴った。

今から行うこの行為を止めるのは、無理だと思った。
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