太陽と月。
序.
この森の守り神が死んだ。
そう木霊から伝えられたのは今日の早朝の事だ。
どこまでも高い空には雲一つ無く、鳥が囀り澄み渡った空気が森を満たしていた早春の事である。
まだ桜の蕾は固く閉ざされ、梅は盛りを過ぎた頃。
「そうか」
私はちら、と木霊を見やる。
木の根本に座り込んだ膝辺りまでの背丈の彼らは、朝だというのに日の光に負けじと白く輝いていた。
一応人の形をしてはいるが、触れないし、あちらから触ってくることもない。
「藍妃様はこれからどうなるおつもりで?」
「そうだなあ…」
考えもしなかった事だった。
神は滅多に死なない。そうひょいひょい死なれては森が死んでしまう。
うちの守り神であった彼もきっと、そういうものなのだろうと漠然に考えていた。
だから将来どうしたい、ああしたいという計画もこれと言って無かった。
「…ま、これで神仕の務めも終わった。あいつの束縛からも放たれて、晴れて自由の身だ。時の氏神のご意志のままに放浪でもしてみるよ」
くるりと私は踵を返す。
黙り込んでしまった木霊を振り替えることもなく、茂みの奥へと私は歩を進めた。