秘密だよ?~ピアノとバスケそして君~
階段を上るとロフトになっていて、
店内を見下ろせる造りになっている。
グランドピアノが真ん中に置かれていて、
レコードや楽器が雑然と置かれている。
「わあ、何か凄い。」
「おじさんの趣味の部屋。いろいろレトロだろ?」
「うん。何かいいね、秘密基地みたい。」
「だろ?、あ、その椅子にでも座って。」
パタパタと音をさせて、ピアノを開く。
カバーを持ち上げるとぶわっとほこりが舞い上がった。
「ぶへっおじさん掃除ぐらいしろよな~」
下に向かってたかちゃんが叫んぶと、
「悪いな~!」
下から、おじさん声と一緒にわははっという笑い声が聞こえる。
ブツブツ言いながら羽箒で鍵盤をお掃除するたかちゃんは、
ちょっと几帳面で意外だった。
落ち着いたのか、椅子に腰掛けると、
鍵盤をなでて、真ん中のハの音を叩いた。
「じゃ、行くよ、まだ、完璧じゃないから、
失敗しても聞き流して?」
たかちゃんがすうっと息を吸って背筋を伸ばす。
あ、この瞬間だ。
あたしが初めてたかちゃんを意識した時と同じ。
一瞬空気がピンと張り詰めて
ふわっと緩んで曲が始まる。
あ、この曲好き。
『ラ.カンパネラ』
甘い調べが私を包む。
あたしだけのためのコンサート。
焦がれて欲しかった。
たかちゃんの音
涙が出るくらい嬉しい。
忘れないよ。
この音、この空気。
記憶に、心に、耳に、しっかり刻むね。
あたしは絶対忘れない。
絶対…
瞳の奥から湧き上がってくる痛みは、
たかちゃんの奏でる音と一緒に、
揺れて溢れて、
あたしの頬を濡らす。