星空の魔法
『それじゃ』

『うん。ありがとう』

別れ際はその言葉だけだった

あたしは振り返りもせずに真っ直ぐ前を見て家へ向かった

そっと玄関のドアを開けて、家に入る

急いでパジャマに着替えて寝室へ向かう

旦那の豪快ないびきが部屋に響いていた

だいぶ酔ってたはずだから、目は覚ましていないはず

シングルベッドが2つ並ぶ部屋の自分のベッドへこっそり入った

旦那が気付いてなかった安心感が押し寄せてくる

ホッとしていた

初めてのこんな気持ち

それから、自分の唇に手を当ててみる

長谷部さんの顔が思い浮かぶ

何て事をしてしまったんだろうって、後悔ばかりが募っていく

ごめんね…

旦那に対する罪悪感

だけど、浮かんでくるのは長谷部さんの顔

そして、満天の星空だけ

旦那が眠るベッドに背を向けたまま、長谷部さんとの会話を思い出していた

久々にぬくもりを感じた手を見つめた

あの一瞬だけで、あたしの心は奪われてしまったのだろうか

情けない

そのまま、眠れるはずもなく、朝を迎えた

一睡もしないまま、ベッドから起き上がり、シャワーを浴びた

全てが流れていって欲しかったのに、気持ちは流れていく事はなかった
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