お姫様の作り方
でもすぐに彼の手は伸びてきて、ゆっくりと靴を脱がす。
温い彼の手が、冷え切った私の足に触れた。


「あーあー…お前さぁ慣れない靴で走ったかなんかした?」

「え、分かるの?」

「なんかそういう靴ずれの仕方だもんこれ。おいおい皮まで剥けてんじゃねーか。どんだけ走ったんだよ。
つーか本物のお嬢様がこんなところにいていいのか?」

「…良くないわね。」

「なんでこんなところにいるんだよ。」

「なんでって…さっきも言ったじゃない。車から一瞬見えた由貴が気になったから。」

「はい?」


絆創膏を2枚ほど貼った手がピタリと止まった。足にだけ向けられていた彼の目が今は私に向けられている。


「あ、ごめんなさい。呼び捨て、気に入らなかった?」

「いや、そーじゃなくて。一瞬って何?」

「車に乗ってたの。パーティーの帰り。」

「はぁー…俺が一生知ることのねぇ世界だな。」

「そう、ね。」

「あ、で話戻すけど、車乗ってて俺が見えたのか?」

「見えた。…というよりはむしろ聞こえた。声が本当にはっきりと。」


聞こえたんだ、彼の声が。真っすぐに。
そして本当に一瞬だったけれど私とは違うということがすぐに分かった。痛いほどに分かった。


「…羨ましいって言ったら、由貴は怒るのかな?」

「いや、怒んないけど。何?俺の何が羨ましい?」

「…自由じゃない。声も笑顔も、何もかもが。」


自由だと感じた。由貴は色々なものから自由で、その自由を声に乗せて表現することができる。

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