お姫様の作り方
「歌えねーって決めてんの、多分お前じゃん。」

「っ…!」


あまりに曇りのない真っすぐな物言いに怯んだのは私の方だった。
…彼は、正しい。


「あー…お前、何の歌なら知ってるの?」

「…最近の曲は知らないわ。」

「んじゃ…俺の歌でもいい?」

「え?」

「ワンフレーズずつ歌うから追い掛けて来い。」

「む、無茶よ!」

「無茶でも何でも歌えば自由になれる。」

「…無茶苦茶よ、由貴とは違うって私…。」


私は眩しすぎる由貴から目を逸らし、視線を下げた。歌って自由になれるくらいなら私ははるか昔に自由になっている。
歌は好きだった、小さい頃から。
―――いつから私は音を楽しむことをしなくなったんだろう?





「俺を信じろ。」

「え…?」




自分の頭より少し上から降って来た言葉にパッと顔を上げたのは反射のようなものだった。
顔を上げると、由貴が真っすぐに私に手を差し伸べている。



「信じろ。俺のギターなら歌える。」


その言葉を信じるに足る理由は多分ない。
でも信じたい、そう思ったのが今の理由。
…だから、私は由貴の手を取った。


「…いいわ。」

「そーこなくっちゃな!」


心地良いギターサウンドが寒い冬の夜に鳴り響く。そのギターの音に重なったのは由貴の声だった。

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