お姫様の作り方
「もし君に巡り合わなかったなら。」

「もっもし君に巡り合わなかったら。」

「歌えんじゃねーか。」

「う、歌えるわよ!」

「しかもいい声。」

「お、お世辞はいいわ。」

「お世辞じゃねーよ。俺は嘘は嫌いだ。」


ギターサウンドが一瞬強くなった。すうっと息を吸った音がした。


「明日の自分を夢見ることはできなかった。」

「明日の自分を…夢見ることはできなかった。」


きょろきょろと泳ぐ目をはっきりと捉えてくるのは強くて真っすぐな由貴の瞳だった。


…何なんだろう、この感覚。恥ずかしいのに、楽しくて、身体が…


「軽い…。」

「ん?」

「身体が軽い…。」

「だろーな。」

「え?」

「いー顔してんぞ、茉莉花。」


ピタリと止まったギターの音。すっと伸びてきたのは由貴の大きな手。冷え切った頬に温い手が触れた。


「っ…!」

「さっきよりもちゃんと笑えてるし、声も綺麗だしよく伸びてるし、お前センスあるよ。俺が言うのもなんだけどな。」


そう言ってにこっと笑う。一瞬前の表情はえらく大人びて見えたのに、こうして笑うと幼くなるから不思議だ。
…不思議なのは、突然熱くなったこの頬もだけれど。

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