お姫様の作り方
「きっ…気安く触らないでっ!」

「おー悪ぃ悪ぃ。」


パッと離れた大きな手。ただ、熱の余韻が残ったままで、それについてどう対処すればいいのか分からずに私は下を向いた。


「少し自由になれただろ?」

「え…?」

「望んで手に入らないもんがないとは言わねぇよ。だけど望まなかったらそれこそ手に入るわけがねぇ。
…だから、諦めてんじゃねーよ。諦めるくらいなら俺んとこ来い。」

「へ…?」


辻褄の合わない話が突然降って来て、〝虎南茉莉花〟らしからぬ声が出た。


「ちょっと待てよ。」

「…な、なんなの?」

「待てって。」


そう言ってさっきのメモにシャープペンシルを走らせる。
くるりと私の方に向き直ると由貴はメモを差し出してきた。


「な、なに…?」

「俺のケータイの番号。何かあったら電話して来い。」

「…どうして?」

「何が?」

「どうして電話番号なんて?」

「お前、なんか苦しそうだったし、あと一緒に歌えて楽しかったからさ。」


またしてもにっこりと笑う。子どもっぽい、あどけない笑顔。
おそらく年齢はそれほど変わらないはずなのに、私の笑顔よりもずっと幼い感じがしてしまう。


「そんな理由?」

「また一緒に歌いてーなって思ったんだよ。でもお嬢様は忙しいだろうから、呼ばれたらいつでもどこにでも行ってやる。だから呼べよ。
…また、歌おうぜ。」

「…そう、ね。」


嫌だとは思わなかった。多分きっと、この答えが私の自分の意志による生まれて初めての選択だ。

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