お姫様の作り方
「つーか、心の自由は奪われねぇ。表現の自由は奪われてるっぽいけど。」

「え?」


若干上ずった声で返事をしてしまうのは涙のせいだった。


「あー無理して声出すな。泣いてる時って上手く声出ねぇし。とりあえず俺の話を聞け。」

「……。」


声を出すなと言われればとりあえずは出さない。頷くことで聞くという意志を示す。


「お前の立場みたいなもんの大枠は分かった。でも多分、分かったって言ってる割には分かってねぇんだと思う。だって経験してるもんじゃねぇからな。」

「……。」


どうして由貴の言葉はストレートに響くんだろう。
…多分、嘘がない、からなのだろう。…多分、だけれど。


「だから、お前の気持ちとか立場とかを全て正確に把握して何かを言えるわけじゃねーし、言うつもりもねぇんだけど…。
でも、お前が心まで自由を奪われたって思っちゃ終わりだろ。実際奪われてねーし。」

「そんなことっ…!」

「奪われてたら俺と出会ってねーよ、お前。
お前の心が俺の音を聴きたいって思ったから降りたんだろ。そこにちゃんとお前の意志はあるし、お前が諦めなければ変わるものもあるだろ。
…茉莉花。」

「な、なによっ…。」

「自由になれないはずがない。心は誰にも邪魔されない。
…だから、頑張れ。自分の自由は自分がまず最初に守れ。やばくなったら…とりあえず呼べよ。お、タクシー!」


そう言ってすぐに頭から重みが消えた。目の前にタクシーが止まる。


「こういう時に使うのがカネだろ?着いたらお父様に払ってもらえ!」

「ちょっ…!」

「大丈夫。…絶対また会えるから。俺を信じるんだろ?」

「…そう、ね。信じるわ。」


バタンとドアが閉まった。
涙で滲んでいたはずの視界がやけにクリアに見えたのは…


「…俺を信じろ、か…。」


信じてみたい人に、出会えたから。

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