お姫様の作り方
「もう気は済んだだろ。…じゃーな。」

「ま、待って。」


私は咄嗟に彼の制服の裾を引いた。立ち上がっていた彼は、私の手を振りほどくことなく大人しくベンチに座った。


「…なんだよ。」

「私、お礼を言っていない。
…ありがとう。助けてくれて。あの時あなたが来てくれなかったら私多分、顔面から転んでいたと思う。それに彼らから逃げられたかどうかもちょっと分からない。
だから、ありがとう。助けてくれて。」


私は真っすぐ彼を見てそう言った。
こうやってちゃんと真正面から彼を見つめれば、最初に何故怖いなんて思ってしまったのか疑問にすら思う。
…彼は全然怖くない。最初のインパクトこそ強いけれど、でも。


「…優しいのね。」

「は?」

「え…だって普通、あの場面は無視するでしょう?」

「…ああいうの嫌いなんだよ。」

「そりゃあ好きな人はあまりいないでしょうけど、でも嫌いだからといって行動に移す人は少ないと思う。
…だからあなたは優しい。私はそう思う。」

「…勝手に言ってろ。もう…いいか?」

「えっと…うん。言いたいことは言ったし、…うん。」

「タオル、貸せ。」

「え?」

「タオル、血ぃついてんだろーが。洗って返す。貸せ。」

「い、いい!自分で洗うし、元々私が助けられてそれでちゃんと返したくて…!あ!」


一瞬の隙をつかれて奪われた私のタオル。濡れたままのタオルを彼は制服のポケットに突っ込んでしまった。


「何組?」

「え、あ…2-Dの会田真鈴です。」

「名前までは聞いてねーよ。」

「あ!」

「Dな。届ける。あ…でも、俺が行くとまずいか。…下駄箱に入れとく。」

「ど、どうしてまずいの?」


思わず聞き返す。何がまずいのだろうか。

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