お姫様の作り方
誰もいない図書室。ここに私がいることはいつもと同じ。だけど、彼がここにいることはいつもと同じではない。イレギュラーだ。


私は彼の腕から手を離した。


「…そんなの当たり前すぎて、理由になっていない。
でも、何がどう違うのか言ってくれたら理由になるかもしれない。話すのが嫌じゃなかったら話してほしい。」


これは今の真っすぐな気持ちだった。
しかし、私と彼の関係性を冷静に考えれば、私にはここまで彼に踏み入る権利も理由もないのかもしれないとも思う。
それでも踏み込みたいと思ったのだから仕方がない。発してしまった言葉をなかったことにはできないし、そうしたいとも思わない。


私は真っすぐに彼を見つめた。彼は視線を下げたまま、小さく口を開いた。


「…ここ、誰も来ないか?」

「ええ。こんな朝早くから図書室を利用しているのは私だけよ。
…あなたも毎朝こんなに早くから学校に来ているの?」

「いや…違う。眠れなくて、…だから来た。」

「なるほど。どうして眠れなかったの?」

「…どうやったら返せるか…考えてた。」

「普通に来ればいいじゃない。か、あの時返してくれたら…。」

「…それは嫌だったんだよ。ちゃんと洗って返したかった。それは今も変わってない。」


彼はゆっくりと言葉を選んでいる。時間はたっぷりある。


「…私とあなたの、何が〝違う〟?」


彼は何を思って私と違うと言うのだろう。
性別からして違うけれど、多分彼が言いたいのはそういうことじゃない。

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