お姫様の作り方
「みんな集まったわね。じゃあ今日の読み聞かせタイムを始めます。
今日の3冊は桃太郎、ヘンゼルとグレーテル、そして美女と野獣です。」


そう言ってあいつは読み聞かせを始めた。


…久しぶりに絵本の読み聞かせなんてものに立ち合っている。
こんな風に絵本を読んでもらうのは本当に子どもの時以来かもしれない。


声色も優しく穏やかで、なおかつ抑揚もあってとても聞きやすい。
はっきりと物を言う時と人は変わっていないはずなのに声があまりにも違っていて驚かされる。


あっという間に最後の本、『美女と野獣』だ。
ストーリーは大体知っている、はずだ。醜い野獣と、その心根の優しさに気付いた美女との恋愛話。これだけ言うとかなり大雑把だが、本筋からはずれていない。


ストーリーをあいつの声を聞きながら辿りつつ、ぼんやりと野獣の思いを考える。こうしてちゃんと話を聞いてみれば、どこか俺と野獣は似ている気がしないでもない。


…さすがに野獣ほど醜くはないが、でも野獣と同じくらいに自分の姿にコンプレックスはある。
姿故に忌み嫌われる自分。上手く自分を出していけない自分の愚かさに何度絶望したか分からない。その絶望を繰り返すうちにいつしか諦めるようになったのも事実だ。


「…勿体ない、か。」


それは多分、遠回しに諦めるなと言っていた。
まるで物語の美女のようだな、あいつは。
芯が強くて真っすぐで、それでいて顔も可愛くて、優しい。


…勘違いはしてはいけない。あいつはただ、あまりにも違う人種であるからこそ興味を持ったに過ぎない。それに、救われたという恩も強く感じている。
ただ、それだけなんだ。


終わりを知らない思いだけがぐるぐると渦巻いて離れない。
それでもあいつのやたらに心地の良い声だけはちゃんと聞こえていた。

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