お姫様の作り方
「…なんであたしの傍にいてくれるの?」

「好きだからですね。」

「なんで笑ってくれるの?」

「雪姫さんに笑ってほしいからです。
…言葉はこれ以上、必要ですか?」


生まれて初めて聞く、洸の焦ったような声に背中がどきっとした。真っすぐな視線も今までに何度も見てきたはずだったのに、こんな表情の洸は…初めてだ。


「…必要じゃ…ない。洸は充分すぎるくらい色んなものをくれた。
それに、あたしは返せてない。何も…返せてない。」

「そんなこと…。」

「あるよ。あたし…いつだってちゃんと言ってない。分かってた。ずるいって。…つり合わないからの一言で、色んな事をないがしろにしていたのは…あたし。」


洸の優しさに甘えて、向けてくれる笑顔に甘えて。返さなくても洸は傍にいてくれるから。…でも、そんなことをしているからずっと、〝つり合わない〟としか思えなかった。あたしの洸に対する不誠実な態度は余計に洸への引け目を感じる要因を作るだけだったのに。


「…ありがとう、洸。ありがとう。
おいしいケーキもクッキーもいつもいつもありがとう。本当においしくて…悔しかったのは、…多分、また洸の良いところを見つけちゃうからだと思う。あたしに良いところは全然ないのに、洸の良いところばっかり見えちゃうことが…余計にあたしと洸の溝を深めていくみたいで…多分嫌だった。」

「はい。」


洸は聞こうとしてくれている、あたしの言葉を。…待って、くれている。


「あたしの態度が…不遜でも、めげずにたくさん話してくれて、笑ってくれてありがとう。…嫌じゃ…なかった。」

「はい。」

「教室で食べようって言ってくれたことも…最初は正直本当に嫌だったし、どうなるかなって不安だったけど、洸がいてくれる安心って…多分あの時感じてた以上に大きかった。
…だから、ありがとう。これ、本当はもっと早く言わなくちゃダメなことだったと思う。…今更だけど。」

「…はい。もっと早く言ってくれたら、僕ももっと早く雪姫さんに好きって言ったかもしれません。」


洸はまた、優しく笑った。

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