お姫様の作り方
「ちゃんと持ったか?」

「うん。」

「…行くぞ。」

「えー引っ張ってくれないの?」

「…はいはい。」


俺は美森の華奢な腕を掴んで引く。この光景に周囲も特に何の反応も示さない。俺にとっても美森にとってもいつも通りのことだからだ。
…先に言っておくが、俺と美森は付き合っていない。


「ふわー…眠い。樹…抱っこ。」

「バカか!何が抱っこだ抱っこ!」

「じゃーおんぶ?」

「どっちもしねぇよ!なんだよ、何甘えてんだお前!」

「だって樹、甘やかしてくれるから甘えるよー…ふわ…ほんっと眠い…。」


口を大きく開けてあくびをする、そんな姿さえ〝可愛い〟のだからタチが悪い。こんな小悪魔が傍にいると、おちおち恋愛もできやしない。つまり彼女なんてものは俺にはいない。…まぁ、このお姫様にも実のところ王子はいないわけだが。

「んー…限界…。」

「は…?」


完全に俺に倒れ込む美森。軽いから何の問題も無く受け止められるが、その目は完全に閉じている。


「おいお前な…!授業だっつってんだろ!」

「立っても眠れるレベル…樹、手あったかいし。」

「い、意味分かんねぇ!いーから起きろ!」

「むーりー…。」

「ったくバカかお前は!俺は授業に出そびれるとか嫌だからな。」


俺は美森の手を握った。もう残り1分だ。走るしかない。

「走るぞ。」

「えぇーおんぶおんぶ!」

「うるさいわ!んなことする元気はねぇ!昼前なんだぞ!こうしてやっただけありがたく思え!」

「えー樹が意地悪ー!」

「俺のどっこが意地悪なんだよ。幼馴染のお前の面倒、こんだけ見てやってんだぞ?」


その俺のどこをどう取れば意地悪だとか抜かせるんだこいつは…!


「…ごめんなさい。樹は全然意地悪じゃない。」


やや小走りで進みながらも、不意に後ろから聞こえる声のトーンが下がったことにはさすがに気付いた。後ろを振り返って速度を緩めると、しゅんとしおれた髪が目に入る。

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