お姫様の作り方
「今度はなんなんだよ…。」

「ごめんなさい。」


あまりにもしおれられてはこっちだって何か落ち着かない。


「もういい。いいから行くぞ。」

「…うん。」


ちょっとだけ下を見たままの美森を見やりつつ、俺は歩くスピードを上げた。
…だめだ、俺。騙されちゃだめだ。美森のこれはいつものことなんだ。いちいち甘やかしているのが悪い。(まぁ今も甘やかしていると言えないことはない)だから付け込まれるんだ。…だから、彼女もできない。


「おーギリギリじゃねーか、樹!」

「ギリギリにしたのはお前らだろ…?」

「さっすが相馬!美森の彼氏!」

「彼氏じゃねぇ!」

「ふわー…。」

「お前も否定しろよ!」

「…眠い…。」

「勝手にしろ!」


美森が眠そうに欠伸をこぼしながら、俺の向かい側の席に座った。(教室ならば隣だが、生物室だと向かいになる。)


「おやすみ…樹。」

「あーんま怒らせねぇ程度にしとけよ。」

「はぁい。」


ふわっと目元を一瞬和らげて微笑み、その後机に突っ伏す。
…ドキリと一瞬、身体が熱くなった。


おいおい、止めろ。冷静になれ。そう言い聞かせてぶんぶんと頭を振る。


「なんだ、樹?」

「なんでもねぇよ。」

「…そうか?」

「なんでもねぇって。」


そうだ、なんでもない。美森の行動の一つ一つに意味があるわけでは決してない。だから惑わされるな。美森にとって俺は何かと都合の良い、融通のきく幼馴染であって、特別な感情やら何やらは一切ない。美森も、…俺も。

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