お姫様の作り方
彼の目があたしの名前を辿って横に動く。


「…読みは、しらほし…ゆきひめ…?」

「違う!しらほしゆき!」

「雪姫…さん?」

「いきなり名前呼びなわけ?」

「僕のことも名前でいいですよ。」

「そういうことじゃない。」

「え、違うんですか?」

「…はぁ。」


…なんなんだろう、このワンテンポずれた感は。
それに食事を邪魔されたあたしは自分で言うのもなんだが不機嫌ではある。
しかもリンゴを食べてるところを見られて、挙句白雪姫みたいなんて、あたしの最も嫌いとするパターンで話が進んでいる。最悪だ。


「でも、ごめんなさい。食事の邪魔をしてしまって。あまりにも幸せそうに食べていて可愛かったものですからつい。」

「っ…は!?」

「白雪姫のようだと思ったのはもちろん嘘ではありません。ですがそれよりも何よりも本当に幸せそうな顔をして、美味しそうに食べる人だなというのが先でした。
僕が声をかけたその瞬間にその笑顔はなくなってしまったので、…こうなると分かっていたら声をかけなかったかもしれません。」


少し目を伏せてそう言う彼の髪が優しく揺れた。


「…でも、やっぱり声をかけて良かったと思ってます。笑顔はそこで止まってしまいましたが、名前が分かりました。」

「…迷ったんでしょ。職員室ならそこの階段上がって2階に進めば多分分かる。」


あたしはかなり強引に話を変えた。このまま彼のペースで話が進んでいくのは多分、あたしにとって全然良くない。


「あ、ありがとうございます、雪姫さん。」

「早く行って。あと、あたしがここにいたってことは誰にも言わないで。もう来ないで。」

「…僕はあなたのリンゴを奪ったりしませんよ?」

「そうじゃないっ!」

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