お姫様の作り方
【美森side】


眠れない、眠れない、眠れない。
目を閉じることはできるけれど、気持ちよくは眠れない。


悪い夢なら覚えている。樹が出てきた。
…いつだって夢には樹が出てくる。夢と現実の境目がないくらいに。


眠りたい。いつものように安心して。温かいと思える場所で。


まるで夢と同じような光景が、屋上には広がっていた。
笑顔の樹、笑顔の〝彼女〟。そこにあたしはいない。


「…絵本の中のお姫様は…待っていれば幸せが舞い降りるのに…。」


眠り姫だって白雪姫だって待っていただけだ。王子様が現れるのを。
それなのにあんな風にすぐに王子様が迎えに来てくれてハッピーエンド。そんなのずるい。待っているだけで幸せを掴むなんて。


一番ずるいのは眠り姫だ。眠っているだけで王子様が迎えに来る。あたしと同じようなことしかしていないのに、いつの間にか樹はいない。


眠い。眠くて仕方がない。それなのに眠れないのはどうしてなの。
教室で目を閉じてもノイズばかりが耳を刺激して、一番欲しい声が聞こえない。


「あたしは…眠り姫なんかじゃない。」


寝てはいた。安心して眠れる場所があったから。
でも今はもう眠れない。夢で会えた優しい笑顔に、突然会えなくなってしまった。


「…勝手なこと、言ってる、あたし。」


いつの間にか図書室に来た。
そこには最近付き合い始めたらしい白雪姫とその王子様。王子様が持っているのはなぜか『眠り姫』の洋書。


「白雪姫、読み終わったの?」

「はい。ですから今度は眠り姫をと。」

「じゃああたしが読もうかな、白雪姫。」

「分からないところはお教えしますよ。」

「…ちょっと頭いいからってさー。」

「ただ、一緒にいたいだけですよ。雪姫さん。」


少し頬を染めて、それでもお互いをとても大切そうに見つめながら話す二人を見て、ちょっとだけ胸が苦しくなる。
…白雪姫のお話は、ハッピーエンドだったみたいだ。バッドエンドなのはあたしだけなのかもしれない。

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