お姫様の作り方
「な…。」

「樹は勝手だよ。あたしに構ってる暇なんてないくせに。
……を一番大事にできない…くせに。」

「え…聞こえな…。」

「もういい。」


美森はそれだけ言うと俺を振り切って教室の外へと出ていこうとする。


「おい、待て…!」

「待たない。樹の言うことなんて何も聞きたくない。」

「待てって。」


美森の腕を掴んだ、その瞬間。


バチっと音がした。それと同時に痛みもやってくる。俺の手が行き場をなくしている。


一瞬だけ何か水のようなものが散った気がした。美森は下を向いていて、その表情は見えない。


「な…。」

「待たないって…言った、あたし。」

「だからってお前…本当にどうしたんだよ。」

「樹に、関係ない。」


またしても俺に背を向けて歩き出す美森。俺はその背を追い掛ける。


「美森!」


腕を引いた。力加減が上手くなかったからか、美森が無理矢理こっちを向く形になる。


「っ…。」


一瞬だけ、美森がこっちを見た。その表情に、俺の手が緩んだ。その隙を見逃さなかった美森はそのまま教室を出て行った。


「おいおいなんだよー痴話ゲンカかー?」

「…んなんじゃねーよ。」


いつの間にかクラス中の視線を集めていた俺と美森の騒動はそこで終わった。
残された俺は自分の椅子に座る。


「樹ー?大丈夫か?」

「…今は話しかけんな。」

「おぉ怖。」


…周りの友達の言葉も今はどうでもよかった。クラスの奴の視線が痛いほど突き刺さってることもどうでもよかった。そんなことよりも何よりも…。


「なんでなんだよ…。」


泣いていたんだ、美森は。確かに、涙を流していた。

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