お姫様の作り方
* * *


午後の授業の時には戻って来ていた美森はやっぱり俺の方を見ようともしなかった。
そして放課後、俺は屋上へと急ぐ。美森は机に突っ伏していたけれど、寝てはいないようだった。そういうのはなんとなく分かる。


屋上はやっぱり寒かった。昨日から急激に冷え込んでいたからだ。


「…あれ、俺の方が先か。」


こんなのは珍しい。いつだって彼女は俺よりも先に待っていてくれた。
美森が俺を待っていてくれたことなんてない。だから妙な感覚だった。誰かが俺を待っているというのは。


しばらくして、控えめに屋上のドアが開かれた。


「…お待たせしてすみません。」

「いや、そんなに待ってないよ。」

「…私が樹先輩を待たせるのは初めてですね。」

「う、うん。そうだね。」

「待ってる間、何を考えていましたか?」

「え…?」

「…私は樹先輩を待つ間、樹先輩のことを考えていました。
来てくれるかな、授業遅くなったりするのかなとか、本当に多分樹先輩が聞いたらどうでもいいようなことばかり考えています。
…樹先輩はどうですか?私を待つ間に、私のことを考えたり…しましたか?」


その問いに、すぐさま『考えていたよ』と答えられないことがもう『考えていなかった』と自白するようなものだ。


彼女の視線は悲しげに落ちた。言葉が出てこない。


「…樹先輩は鈍いんですね。それに美森先輩も意地っ張りです。どっちも素直じゃないです。…こんなこと、私が言うのもどうかと思いますけど、でも…もう言います。
…美森先輩が待ってます、樹先輩。」


彼女は真っすぐにそう言った。

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