お姫様の作り方
冷たい風が吹く。俺と彼女の間に、酷く冷たい風が。


「…私、本当に樹先輩のことが好きです。
だけど、樹先輩は私に告白されたその時にはもう…違う人を好きだったんじゃないですか?」

「……。」


違う人が誰を指しているのか分からないほど鈍くはないはずだ。
その名を彼女に言わせてしまうことも、きっと本当は良くない。


「樹先輩。」

「…なに?」

「別れましょう。」

「え?」

「樹先輩に好きな人がいて、しかも樹先輩は本当にその人しか眼中にないってことがよーく分かりました。
…不毛な恋、です。…本当はちょっとだけ、最初から…分かってたんです。」


少しだけ弱弱しくなった語尾に、切なくなる。俺にはこうして心を痛める権利さえないのに。


「さよならです、樹先輩。
…あの、もう行って下さい。お願いします。」


彼女が深く、頭を下げた。ずっと顔を上げないでいるのは、上げられないから…だと思う。
だったら、今自分がすべきことは、ここを離れることだ。
―――彼女の涙を見ることなく。


「…ありがとう、大事なことに気付かせてくれて。
バカな俺に付き合ってくれたことも、ありがとう。」

「…はい。本当に樹先輩はバカです。愛想尽きました。」

「うん。」


それ以上は何も言えなかった。なぜだか『ごめんなさい』は言いたくなかったから、慎重に言葉を選んだ。
そして俺は、屋上を後にした。
傍から見れば呆気ない別れ話だろう。でもそれほどまでに関係は弱かった。関係を作ろうとしなかったのは、紛れもなく俺だった。

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