お姫様の作り方
「え、そうじゃないんですか?」

「そこまで食い意地張ってるわけじゃないわよ、あたしだって。
…食べてるとこ、見られるのが好きじゃないの。」

「そうなんですか。それは…なんだか勿体ないですね。」

「何がよ?」

「食べている時、とても可愛いですから。」

「はぁ?」



自分でも頬が熱くなったことを感じる。
こんなに真っすぐと、しかもこんなに至近距離で『可愛い』なんて言われることは生まれてこの方身内くらいからしかなかった。
…だから生理現象だ。それ以外の感情なんてない。



「ほんのり頬が染まるとより愛らしいですね。」

「っ…もういい!分かった。連れていくよ職員室。」

「いいんですか?」

「いいよ、行くよ。」

「ありがとうございます。雪姫さんは可愛くて親切なんですね。」

「思ったこと、そのまんま出さなくていいから、ほんと!」

「あ、でもその食べかけのリンゴ、どうするんですか?」

「あとで食べる。」

「…色、変わっちゃいますよ?」

「知ってる、けど。」

「見られるのが嫌いなんですよね?」

「そう。」

「…それは、リンゴが大好きだからですか?」


…なんで、こいつは。
たった1回、あたしがリンゴを食べているところを見ただけでこうも見抜いてくるんだろう。


嫌なのに、嫌だと感じさせない〝何か〟を、多分持ってる。隠して。
ズバリと当たったその指摘に、あたしは首を縦に振ることも横に振ることもできない。


「…見ないです。僕、食べ終わるの待ってます。
美味しいものは美味しい時に食べたいタイミングで食べるべきです。」


そう言って彼、神谷洸はあたしに背を向けた。
…あたしは彼の言葉に甘えることにした。
―――やっぱりお腹は減っていたから。

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