お姫様の作り方
「なんでよ?」

「僕も一緒にリンゴが食べたくなったからです。」

「はぁ?」


思わず大きな声が出た。というか、こいつの思考回路が突拍子もない。


「すぐに、とは言いません。でもいつか、近いうちに。」

「あたしは…一人がいいんだけど。」

「食事は一人よりも二人の方が楽しいですよ。」

「別に楽しくなくていい。空腹さえ満たせればそれで。」

「…そうでしょうか?雪姫さんを見ていて、僕はそんな風には思いませんでしたけど。」

「…どういう意味?」


神谷はやっぱり穏やかに微笑んだまま言葉を続けた。


「というよりはむしろ、僕がただ単に雪姫さんと一緒に食べたいってだけかもしれません。
やっぱりリンゴを食べている時のあなたは可愛かったです。それこそ白雪姫なんか及ばないくらいに、です。」


そう言うと、神谷はあたしの横をすっと通り過ぎた。何の香りなのかは分からないけれど、ほのかに心地の良い香りが鼻をかすめた。


「職員室はこの上でしたよね。
案内して下さるのは嬉しいですが、本当は授業中でしょう?サボっていることがバレて叱られてはつまらないですから、ここで大丈夫です。ありがとうございました。」

「…別に。」

「では、また会いましょうね。そして話しましょう、雪姫さん。」


そして一度も振り返ることなく、神谷は階段を上っていった。


「…変な…やつ。」


それしか言えない。本当に神谷洸は変なやつだ。さらりと『可愛い』なんて言ってのけるところも、大食いのあたしを初めて見て引かなかったところも含めて全部。…多分きっと全部が変なのだろう。それに…


「…よっぽど、王子でしょ。」


あたしは白雪姫にはなれないけれど、神谷はなんだかそのままが物語の〝王子様〟みたいだと思った。
―――口にはしない、けれど。

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