お姫様の作り方
「あ、赤くなった。」

「な…なってない!」


慌てて否定したけれど、頬が熱いのは…多分赤さを肯定している。


「…ねぇ、海央ちゃん。」

「な…なに…?」


頬を押さえながら陸くんを見上げれば、陸くんはまたしても優しく笑っている。


「…人魚姫の本当の王子様に立候補してもいいかな?」

「えっ?」


そう言われて、前に陸くんと話したことを思い出す。
そうだ。…泡になり損ねた人魚姫のその後…、そんな話をした。


「絵本の中の人魚姫は〝悲恋〟。でも海央ちゃんは泡にならなかった。海央ちゃんのストーリーは続いてるでしょう?
そのー…樹先輩は海央ちゃんの王子様じゃなかったってことで、…俺が立候補。まぁ、王子ってガラではないけどさ。」


そう言って笑う陸くんにまた、心臓が鼓動を早くする。
鼓動のスピードに合わせて顔の赤さも増している気がする。


「…帰ろう、ね?」


すっと握られた手。それを振りほどきたいとは思わない。むしろ、心地が良いとさえ思ってしまう。


「手、冷たい。」

「…陸くんは温かい。」

「お裾分け。前に俺の痛みを貰ってもらったから、熱のお返し。」

「…人魚姫はあんまり熱いのは苦手だと思う…。」

「それって海央ちゃんもいきなりグイグイくるのは苦手ってこと?」

「なっ…そ、そういう話じゃないっ…!」

「あーはいはい。グイグイ来られるの苦手なのね。分かった分かった。
…じゃあゆっくりいきましょう。手は…離さないから。」

「っ…!」


少しだけ強引になった陸くんにドキドキが加速する。
何かがちゃんと終わって、何かが少しだけ始まりそうな予感がする。


「恋に破れた奴だって幸せになれないわけないっしょ。
…だから人魚姫も幸せになれる、絶対に。」

「…陸くんがそう言うと、そうなる気がするから…不思議。」


*fin*

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