紅蓮の星屑
†謎の大剣†
深夜24時。
夏の夜風に、ざわめく大樹の群れ。草木の香りが、しけった空気と共に肺を満たす。
夜空をゆうゆうと流れる雲が月を隠した。果てしなく拡がる樹海が闇に染まる。
男は、夜空に向けていた視線を森の入口へと戻す。
目の前には、ぽっかりと開かれた暗い森の入口が待ち構えていた。今にも闇に紛れて、獣の息遣いが聞こえて来そうな程の不気味さだ。
不意に男の背中を光が走り抜ける。同時にアスファルトを踏み鳴らすタイヤの音も走り抜けた。
樹海に沿って伸びる背後の道は、男がこの森に来るまで車を走らせていた道路である。ひと気のない深夜でも、荷物を運ぶトラックや一般の車がたまに通る。
やがて車の音は遠ざかり、男は両手に持つライトと、コンビニで購入したビニールの紐の束を確認するように握り絞めた。
それから一度周囲に目を向ける。
すると少し離れた場所に、黒塗りのワンボックスカーが停車している事に気が付いた。
だが視界の悪い暗がりでは、車に人が乗っているのか確認出来ない。
それでも人の気配は無いと判断した男は、森に向けて一歩踏み出していた。
そして手に持つライトを強く握ると、漆黒の闇に吸い込まれるよう、森の中へと消えて行ったのである。