ノブレッソブリージュ



『場』に慣れた人物というものは、ちょっとした兆候でこれから起きる出来事を予測できるものである。



『蜘蛛の巣の揺れでその中央にいる蜘蛛の存在に気づける』ように。



だから、今日この町になにかしら良からぬことがやってくるのは、昨日の街のざわつきで解っていたことだ。



解っていてわざわざ居合わせるようなことをしたのだから、昨晩の疲れと安易な自分たちの判断をついつい恨めしく思ってしまう。



「やっぱ昨日のうちに出ときゃよかったかなあ」



ローラントは窓越しに雨をもたらす外を眺めた。



彼の赤髪がかかる肩には、リスほどの大きさの小動物がくつろいでいた。



ティーカップ・ラブラドールなんて品種の名前にしたら、女の子は喜ぶだろうか。




ドイルと名付けられたその超小型犬は、背後の扉の音で頭を上げた。




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