ノブレッソブリージュ
ローラントとノエルが宿泊していたのは、三階の一番隅の部屋だった。
反帝軍の襲撃は三階まで及んだらしいが、ノエルが昨晩張った誘導結界のおかげで、二人の部屋は見事にスルーされたようである。
旅支度を済ませ、ノエルが部屋の扉を開けると、すぐになにかがつかえて扉が止まった。
見れば、窓から逃げようとしたらしい女性が横たわっている。
昨日は受付で微笑んでいた若い美人だ。
今は、苦痛に満ち満ちた鬼のような表情をしている。
二人はそれを乗り越え、さらに数体の屍が横たわる廊下を抜けて、階段を降りた。
結構な人数が泊っていたらしい。
「………あ」
「どうした?」
ノエルは一体の屍の中に、黒地に青十字の国旗のバッジを付けた男を発見した。
同郷の友までもが犠牲になっていた。
「供養くらいはね」
ノエルは即席で作りだした百合の花を、その男の胸に添えて十字を切った。