ノブレッソブリージュ
雨は降れども傘はなく。
赤と青はただ降りしきる雨に黙って打たれた。
まったくもって、湯を浴びた意味がなくなってしまい、ノエルは少々膨れている。
ドイルは、さすがに雨に打たれてはどこかに流されてしまうやもしれなく、ローラントのジャケットの胸ポケットに身体を埋めた。
まるでカンガルーの子供のように、顔だけをひょっこり出している。
それが見詰めるのは地獄絵図である。
「土臭い」
ローラントが呟いた。
「雨だから余計にね」
「それに鉄くさい」
「こんな惨状じゃね」
街道は屍でいっぱいだった。
公共交通機関ももはやこの町は停止している。
ここは森と海に挟まれた田舎町で、船も出ないのならここを出るには森を抜けるしかなかった。