ノブレッソブリージュ
「待ってくれ!」
馬にまたがろうとした旅人の背中に、突如男の声がかかった。
振り返れば、若い青年が裾を真っ赤に汚して走って来るのが見える。
ローラントはそれを見て、まるで鬼のような形相になった。
「旅人さんお願いだ、俺を助けてくれないか!」
青年は旅人の外套に縋り付くなりこう喚いた。
「父さんも母さんも、兄妹も友達もみんな殺されて生き残ってるのは俺だけになっちまった、これじゃ助けも呼べないし船も出せない!
なあお願いだ、近くの街まで俺を連れて行ってくれないか!」
ノエルは、あくまで人のよさそうな柔らかな顔で相槌を打った。
そしてローラントを振りかえり、厳しいその表情を見やる。
「頼む、頼むよ!」
「…聞くが、お前はそれでどうするつもりなんだ」
「軍を呼ぶんだ!
森を抜けたベイドリッツには帝国軍がきているって聞いたんだ!」
「保護を求めるのか」
「そうさ、当たり前だろ!
それに反帝軍の行き先を知らせないと…」
「ならば俺は行使せねばならない」